長期キャンプにオススメ!簡単にできる干物づくり②
魚を目利きし自分で買ってさばいて、自家製の干物づくりに挑戦──
カッコいいですね。アウトドアがブームの昨今、そんなタフな作業にあこがれる方は多いのではないでしょうか。
「でも魚をさばくなんて難しそう……まして干物づくりなんて……」
いえいえ、実はあっけないほど簡単にできてしまう魚の干物。前回は簡単な魚の目利き方法と、魚の内臓処理の仕方までお話ししました。今回は、内臓を除去した魚を開く方法と、干物づくりに役立つ豆知識をご紹介します。
それではエラと内臓を取り除いたホッケを実際に開いていきましょう。
魚の開き方
背開きか腹開きか?
魚の開き方には、背中から包丁を入れて開く「背開き」と、腹から開く「腹開き」があります。どちらが正しいということはなく、地域や慣習、好みによって異なるだけですので、お好みの方を採用してください。
当記事では最初から「腹開き」を想定して処理しています。初めての干物づくりには腹開きがオススメ。なぜなら背開きをした場合、魚の頭を包丁で割らなければならないから。初めての魚さばきにはやや難しいですし、手が滑って包丁でケガなどしやすく危険です。ですので今回は、頭を簡単に処理できる腹開きを採用しています。
魚の開き方
それではさっそく腹を開いていきましょう。
腹は内臓をとるのにすでに開いています。今度は魚の肛門から尾に向かってスッと一本、包丁でガイドラインとなる切り込みを入れます。次にもう少し深く包丁を入れ、包丁が中骨まで達する程度まで切れ目を入れます。
次に中骨に沿って包丁を走らせて、魚の肋骨を切断していきます。
内臓が詰まっていた部分には、内臓を守るように魚の肋骨があります。肋骨と背骨の接合部に包丁で切り込みを入れ、外していく作業です。ゆっくりちまちまやるのではなく、思い切って包丁を中骨に沿って勢いよく走らせた方が、簡単かつきれいに切断できます。
肋骨(ガンバラともいう)は、片側だけ切断してください。両側を背骨から切り離す必要はありません。
肋骨を切断したら、全体を少しずつ開いていきます。多少身が崩れてしまっても問題ありませんが、できるだけ美しく開いた方が見た目はもちろん、衛生面でも管理しやすくなります(理由については「腐敗防止の極意」にて)。
中骨のわきまで包丁を入れ、全体をきれいに開きます。皮一枚を残すようなイメージです。大きすぎるようでしたら皮まで切って身を二つに分けてしまってもいいでしょう。用途により適宜アレンジしてください。
頭の割り方
身を開いたら、最後に頭を割ります。写真のように、魚のアゴに刃をあてて、もう片方の手でトンと力を加えてあげます。これを何度かやれば、アゴが割れてきれいな仕上がりになります。
別の角度から見たところです。アゴに包丁をあてて体重をかけるやり方でも構いませんが、力を入れ過ぎると包丁をコントロールできなくなり、ケガや事故などにつながりやすくなるという理由から、最小限の力で処理するのが理想です。
頭が割れたら腹開きの完成です。
最後にキッチンペーパーなどで細かい水気を拭き取りましょう。血などもできるだけ残さないきれいに掃除するのが、おいしい干物を作る秘訣です。
腐敗防止の極意
魚の開きが無事に完成しましたね。ここから開いた魚を塩漬けにし、干していきます。
さて、そもそも「魚を常温で干しておいて、どうして腐らないの?」と疑問に思ったことはありませんか?普通、生の魚を常温で放置しておいたら腐りますよね。でも干物は腐らずにちゃんと干物になる……。「なぜだろう?」と疑問に感じる人は少なくないはず。
結論からいうと、干物が腐らない理由は「腐る前に干物になっている」からです。
「腐敗」は、悪い細菌が繁殖してたんぱく質などを分解し始めた様子を表します。細菌が原因なわけですから、当然細菌が活動するための栄養が必要です。その栄養となるのが、魚に含まれる血や体液、つまり水分なのです。
干物が腐らない理由は、水分が少ないから。水分がないと細菌の多くは繁殖できません。干物づくりは細菌との競争であり勝負です。干す環境や条件が悪いと魚から水分をうまく抜くことができず、細菌の繁殖スピードの方が勝り「干物になる前に腐る」ということが十分に起こり得ます。こうしたリスクをできるだけ減らすために、魚の内臓を取り除いたり開いたりする過程で、まめに水分を拭き取るのです。
腹開きの工程で魚の身に余計な切り込みを多く入れてしまうと、それだけ水分が保持されやすいポケットが増えることになります。つまりそこから腐りやすいということ。ですから美しく仕上げることに意味があるのです。
前回、内臓を取り除いた後に血合い肉も除去しました。血合いは毛細血管がたくさん走っている筋肉です。栄養たっぷりの部位ですが、血液もまた細菌の栄養となる水分。今回は少しでも腐敗リスクを取り除くために除去しました。
この後、干物づくりは「塩漬け」の肯定に入ります。この「塩漬け」もまた、魚から水分を抜いて腐敗を防ぐための肯定です。
では、もし塩漬けをしない生の状態で魚を干したらどうなるか?
その場合は残念ながら我々は細菌の繁殖スピードに敗北し、魚は腐ってしまうでしょう。
魚を腐敗させずに干物を作るのに、内臓の処理や水分の除去、塩漬けなどはすべて合理的な理由があってのことなのです。
さて、次回はいよいよ最終回ということで塩漬けから干す肯定まで実践します。と、その前に今回使用した包丁を紹介しておきましょう。。
干物づくりに適した包丁
今回使用したのは出刃包丁です。一般家庭に多い包丁は、三徳や牛刀かと思います。三徳や牛刀などで干物を作ることは十分可能ですし、アウトドア用のナイフなどでも作れます。
しかし「魚をさばく」というともっぱら「出刃包丁」というイメージがあるかと思います。
出刃包丁が魚の処理に適しているのは確かですが、その理由は「魚の太い骨も断ち切れるから」です。鯛クラス以上の魚になってくると、三徳や牛刀で魚の骨を切るのが難しくなります。刃よりも骨の方が強く、刃が欠けてしまう恐れがあるためです。
ところが当記事のやり方ですと、まず魚の骨を断ち切る必要も頭を割る必要もありません。切るのはせいぜい魚の肋骨程度なので、出刃でなくても十分対応できるかと思います。初めて魚を処理するという方も安全かつ簡単に実践できる内容にしています。
とはいえ、出刃包丁は魚の処理を目的に最適化された専用刃物ですから、釣りなどアウトドア好きであれば一本は備えておきたいですね。ついでに刃を研ぐための砥石も用意すれば完璧でしょう。
出刃包丁の選び方
出刃包丁の選び方ですが、大は小を兼ねるのでムダに小さいよりもやや大きめのものを選ぶのが吉。ですが、あまり大きすぎても取り回しが難しくなります。またよく使う魚のサイズによっても、選ぶべき包丁のサイズが変わってくるでしょう。
いろいろな魚全般的に対応したいのであれば、刃渡りが170mm程度のものがオススメです。これでしたら小型から中型までの魚に対応できます。魚だけでなく野菜を切ったり肉を切ったりにも使えるので、特にアウトドア初心者に向いたサイズといえるでしょう
荷物がかさばるのが嫌だからできるだけコンパクトなものがいいという人には、中型魚以上には対応しにくいですが小出刃などがオススメです。
砥石の選び方。
砥石とは、包丁を研ぐための石です。砥石の種類や研ぎ方の詳細についてはまた別の機会にご紹介できればと思いますが、ひとまず「中砥」というものが一つあれば十分でしょう。
砥石には目の粗いものから細かいものまで、さまざまな種類があります。目の粗いものは、刃こぼれの修正など大きな手入れが必要な場合に使います。目の細かいものは、仕上げ用として刃の切れ味や耐久性を高めるために使います。中砥はちょうどその間くらい。
刃物はアウトドアの基本です。刃物の充実はアウトドアの充実、ひいては日常の充実でもあります。自分に合った包丁ないしナイフ、それにメンテナンス道具を揃えておきたいところです。
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