【おうちで本格ベーコン作り②】ベーコンを作る前に知っておくべき大切なこと~後編~

【おうちで本格ベーコン作り②】ベーコンを作る前に知っておくべき大切なこと~後編~

おうちで本格ベーコン作りシリーズ、第二弾は「ベーコンを作る前に知っておくべき大切なこと~後編~」です。前回はベーコンの基礎や、肉を干す際に留意しなければならない環境条件や細菌、カビのリスクなどについてお話ししました。本項では前回に続き、ベーコンを作る前に知っておくべき大切なこと「ボツリヌス菌」についてお話しします。

ボツリヌス菌とは

ボツリヌス菌とは重篤な食中毒を引き起こす食中毒菌で、大地や川、海など私たちが生活するあらゆる場所に「芽胞」という状態で眠っています。時には人を死に至らしめるほど強力な毒性を持っており、その強さは自然界でトップクラスといわれるほど。

食中毒といえば主に鶏肉の生食によるカンピロバクターや冬季に流行するノロウィルスなどが有名ですが、これらの菌で人が直接的に命を落とすことはそうありません。ところがボツリヌス菌の強力な毒性は、人間の命を簡単に奪うのです。

肉食文化がさかんな欧州では、ベーコンやハム、ソーセージなどに起因するボツリヌス症食中毒が比較的多かったといいます。日本でもボツリヌス食中毒事件が過去にありました。1984年にボツリヌス菌が原因で死者9名、患者31名を出した「からし蓮根事件」が特に有名です。

ベーコンを作る上で必ず意識しなければならないのが、この「ボツリヌス対策」なのです。

自家製ベーコンを安全に楽しむためぜひ最後までお読みになり、できれば何度か読み返して理解を深めてください。

ボツリヌス菌対策の方法

市販されているベーコンやハム、ソーセージなどには「亜硝酸ナトリウム」が添加されているのが普通です。「発色剤」として記載されていることが多いこの添加物は、それ自体に毒性はありませんが、「有害な食品添加物」として添加量に厳しい基準が設けられています。摂取後、体内の化学反応により発がん性物質(ニトロソアミン類)に変わる可能性があるというのがその理由です。

近年、健康志向の高まりにより「亜硝酸ナトリウムの摂取を避けよう」という声が増えてきています。それにもかかわらず、なぜ食肉加工業者は亜硝酸ナトリウムをベーコンなどに添加するのでしょう?

それは亜硝酸ナトリウムの添加がボツリヌス菌の対策に有効だからにほかになりません。さらにいえば、ボツリヌス菌の毒性は、亜硝酸ナトリウムの発がん性と比較にならないほどリスクが大きいのです。

また食品添加物の安全基準は、政府や国際的な保健機関などにより厳しく管理されています。食品に添加されているものは、毎日摂取しても人体に影響がないとされている量です。即刻生命を脅かすボツリヌス菌のリスクとは比べものになりません。

亜硝酸ナトリウムは「発色剤」という呼び名の通り、肉に添加するとおいしそうで美しい色に発色します。見た目をよくする意図ももちろんありますが、発色剤を添加する一番の理由は、ボツリヌス菌対策を施し食品の公衆衛生を守ることなのです。

岩塩でボツリヌス菌対策

亜硝酸ナトリウムは毒性の高い物質のため、一般人が入手するのは困難です。ですが、その代用となるものが意外と身近なところにあります。それは「岩塩」です。

岩塩には天然の硝酸ナトリウムが含まれており、これを肉に添加することでボツリヌス菌に有効な亜硝酸ナトリウムへと変化します。「岩塩」であることが重要で、食卓塩など海塩に十分な効果は期待できません。

海塩というのは海水から精製された食塩をいい、スーパーなど食品店にもっとも広く流通しているタイプの塩です。岩塩が大粒の固形であったりピンク色であったりするのに対し、海塩の多くは白色でサラサラしています。

自家製ベーコンを作る際は、最初に肉を塩漬けにします。その際に岩塩を使用することでボツリヌス菌対策になるだけでなく、肉の発色もよくなるのです。

ただし天然の岩塩の硝酸ナトリウム含有量は必ずしも一定ではありませんし、ボツリヌス菌対策や発色作用などが安定的にはたらくとも限りません。あくまで事故の確率を下げるための予防措置であり「絶対安全」を保障するものではないことをあらかじめお留め置きください。

真空パックは絶対にダメ

ボツリヌス菌は嫌気性(偏性嫌気性細菌)という性質を持っており、缶詰の中や真空パックなど「空気のない場所」を好んで繁殖します。ですから自家製ベーコンを真空パックするなど「真空状態で保存する」のは絶対にやめてください。ラップで包んでチャック付き保存袋──など、限りなく真空に近い低酸素状態も避けた方が無難です。

ボツリヌス菌は酸素に触れていると繁殖できないため、完成したベーコンはできるだけ密封せずに保存するのがオススメ。ベーコンの保存方法などについては本編で紹介します。

生食しない&乳幼児に与えない

本場の生ハムなどは、厳しく管理された環境下で製造されています。自家製のものは生食せず、火を通して調理するのを前提としましょう。

また食肉中には、ボツリヌス菌が芽胞の状態で存在している可能性があります。「卵のような状態で眠っている」と想像してもらってかまいません。

芽胞の状態で大人が摂取しても問題ありませんが、乳幼児の場合は腸内環境が未成熟なため、腹腔で菌が繁殖し重大な事故へつながる可能性があります。ですから自家製ベーコンを離乳食などに絶対に使用しないでください(加熱してもダメ。離乳食などに使わないこと!)。

ベーコンを作る前に知っておくべき大切なこと、まとめ

前回の「ベーコンを作る前に知っておくべき大切なこと~前編~」から本項の「後編」まで、自家製ベーコン作りで注意すべき基本事項をお話ししました。

これまでの内容をまとめると、自家製ベーコンで気をつけなければならないポイントは大きく以下の通りです。

  • 雑菌を繁殖させない
  • カビを繁殖させない
  • ボツリヌス菌を繁殖させない

最後にそれぞれの注意点をおさらいしてみましょう。

雑菌を繁殖させない

雑菌を繁殖させないというのはつまり、「肉を腐らせない」ということです。そして肉を腐敗させないために気をつけなければならないのが、主に以下の三つです。

  1. 菌の数
  2. 水分
  3. 温度

1.菌の数

そもそも肉に菌がついていなければ、腐敗は起こりません。ですが食肉には最初から自然菌が付着しているのが普通ですから、「できるだけ菌を増やさないよう努める」必要があります。

肉を扱う包丁やまな板など道具類は清潔なものを使い、肉を素手で触らないようにするなどの工夫が必要です。

2.水分

なぜ水分が重要かというと「細菌が繁殖するには水分が必要」だからです。ビーフジャーキーやスルメなどの乾物が腐りにくいのも、水分が少なく細菌が繁殖しにくいから。ちなみにバターや食用油なども腐敗しません。どうやら細菌は脂質を栄養にできないようです。

3.温度

温度の重要性は皆さん心当たりがあると思いますが、細菌が繁殖するのに適した温度帯というのがあります。一般的にはおよそ35℃以上からさまざまな菌が活発になり、食品が腐敗しやすく(細菌が繁殖しやすく)なるといわれています。

これで細菌の繁殖を防ぐための方法が見えてきましたね。肉を素手で触らないようにし、清潔な道具を使って余計な菌を付着させないこと。そして適切な環境下で、できるだけ早く肉の水分を抜いて乾燥させることです。

カビを繁殖させない

カビの予防法も細菌対策と似ています。

1~3の条件通り、カビが付着しないよう風通しのいいところで干し、できるだけ早く水分を抜いて乾燥させるのが効果的です。ただし細菌の場合、肉が乾燥してしまえば腐敗リスクはさほど大きくありませんが、カビは油断なりません。保管方法を誤ると、完成した(乾燥した)ベーコンでもカビが生える場合があるので注意しましょう。

ボツリヌス菌を繁殖させない

本項でお話しした通り、自家製ベーコンを作る際はボツリヌス菌対策として必ず岩塩を使用するのを強くオススメします。

また完成したベーコンは真空あるいは低酸素状態で保存しない、生食しない、乳幼児に与えないこと。

リスク管理は神経質なくらいで過ぎることはありません。これらを肝に銘じておくのが、自家製ベーコンを安全に楽しむ前提条件といえるでしょう。

次回からはいよいよ自家製ベーコン作り~実践編~です。自宅でできる本格ベーコンの作り方をご紹介します。