【おうちで本格ベーコン作り①】ベーコンを作る前に知っておくべき大切なこと
近年のアウトドアブームにより、自家製ベーコン作りに挑戦する人が増えているといいます。
自家製ベーコン作りは時間こそかかるものの決して難しいものではありませんし、意外とそう手間がかかるものでもありません。また一週間ほどの時間をかけて本格的に作る燻製もあれば、フライパンで気軽に作れるものまである懐の深さも人気の秘密でしょう。実際一度自家製ベーコンの味を覚えてしまうと、なかなか市販のものには戻れません。それほど香りよくおいしいのです。
一方で自家製ベーコン作りには、正しい知識がないと重篤な食中毒などを起こす危険性もあります。
本項ではこれから自家製で本格的なベーコン作りに挑戦しようという方向けに、「作る前に知っておくべき大切なこと」についてお話しします。
ベーコン作りに挑戦したいすべての方、必読です。自家製ベーコンをできるだけ失敗せず、よりおいしく、何より安全に楽しむために大切なことなので、ぜひ最後までご覧ください。
自家製ベーコンを作るメリット
自家製ベーコンは格別の味
皆さんがベーコン作りに興味を持ったきっかけは第一に「おいしそうだから」ではないでしょうか。実際に自家製ベーコンの風味は格別で、どんなベーコン料理もワンランク、ツーランク上に引っ張り上げてくれるようなうま味があります。「美味の追求」は、ベーコン作りにおけるもっとも大きなモチベーションといえるでしょう。
さて、ベーコンがおいしいのには理由があります。それは「うま味成分であるイノシン酸が豊富に含まれている」から。
イノシン酸というのは煮干しなどに代表されるうま味成分であり、三大うま味成分の一つです。三大うま味成分というのはトマトや昆布などに代表される「グルタミン酸」に、干し椎茸に豊富に含まれる「グアニル酸」、そしてベーコンや煮干しなどの「イノシン酸」のこと。
自家製ベーコンがおいしいのは、肉を自然環境の中で干す──という昔ながらの手法で燻製までしっかり行うためです。これにより肉のうま味が自然に凝縮され、本物の燻香を楽しむことができます。嘘偽りのない「自家製ならでは」のメリットといえるでしょう。
残念ながら市販のベーコンには、生産性を高めるため乾燥室で肉を急速に乾燥させ、燻煙にかけるのでなく燻液につけて仕上げるものもあります。これらには保存性がなくうま味が少ないため調味料と保存料が添加されるのが普通です。当然本格的なベーコンより味や香りが落ちてしまいます。
保存性の高さ
ベーコンは最初、塩漬けにして水分を抜いてから燻煙にかけます。水分を抜いて乾燥させることで細菌が繁殖しにくい環境を作り、さらに燻煙することで保存性を高めたものがベーコンです。
キャンプやブッシュクラフトなどが好きな方はご存知かと思いますが、煙には防虫効果があります。煙の上手な使い方は、虫のいない快適なシェルターを作るのにも役立つテクニック。虫と同様、細菌類も煙に含まれるアルデヒトやフェノール系化合物、タールなどを嫌います。こうした成分を利用することで保存性が高まるのです。
優雅な時間を楽しめる
本格的なベーコン作りは、ゆったりとした時間を楽しむキャンプなどアウトドアにぴったりです。塩漬けにする時間や干す時間などを逆算してキャンプの日取りと燻煙のタイミングを合わせる必要がありますが、スケジューリングを工夫してまで楽しむには十分過ぎるエンターテイメント。家族や友人とバーベキューを楽しむついでに燻製作りをするのもいいですし、ソロでゆったりウィスキーやバーボンを味わいつつ燻製を楽しむのもいいですね。
欧州のベーコンと日本のベーコン
人はなぜ自家製ベーコンに夢中になるのか。
欧州では干し肉文化が根付いており、ベーコンをはじめ生ハムやグアンチャーレ、パンチェッタといった干し肉がたくさんあります。一方日本には古代より肉を食べる習慣があったものの、肉料理が著しく発展し広まったのは西欧の食文化が伝来してからのこと。
また欧州では家庭で干し肉を作るのがそう珍しいことでないのに対し、日本ではあまり見かけません。これは歴史や文化をはじめ、気候の問題もあります。
欧州よりも湿度が高い日本でベーコンを含む干し肉を作るにあたり、この「環境の違い」はおおいに意識しなければなりません。別項で詳しくお話ししますが、少なくとも「欧州本場と同じ手順でベーコンを作っても、日本では同じようにはならない場合が多い」ということは頭の片隅に入れておいてください。
ベーコン作りに適したロケーション
そもそも日本の気候がベーコン作りに向いているかというと、「欧州より適してない」というのが適当です。東南アジアなど湿度が高くなればなるほど、いっそう向かなくなるでしょう。なぜなら湿度が高くなるほどカビのリスクが高くなるからです。そういう意味で日本は「ギリギリで干し肉を楽しめる気候」といえるかもしれません。ただし、そのために必要な条件がいくつかあります。
環境を整える
ベーコンを上手に作るには、ベーコンに適した環境を作ってあげる必要があります。
近年、日本の気候が変わってきているのは明らか。スコールやゲリラ豪雨のような雨が降ったり竜巻が起こったり、熱中症事故が増えたり──
夏の最高気温は年々更新されており、それに伴って湿度も上がってきています。日本は明らかに高温多湿への気候変動を辿っているのです。それはつまり「干し肉作りに向かない環境になりつつある」ということでもあります。
この現状を踏まえ、ベーコンにとって最適なロケーションを管理する知識が必要となります。さほど難しいことではありませんが、ベーコン作りにおいて知っておくべき大切なことです。
肉は高温環境を嫌う
干し肉を作る際は、肉の温度をできるだけ低く保つよう意識してください。なぜなら、肉の温度が高くなると細菌が繁殖しやすい環境となり、食中毒を引き起こす可能性があるからです。
「紫外線には殺菌作用があるはず」と、肉を直射日光にあてたくなる人もいるかもしれませんが、それは間違い。細菌は肉の表面だけでなく、内部にも存在しています。直射日光により肉の内部が温められて35℃を超えると、食中毒菌がもっとも繁殖しやすい環境条件になってしまうのです。
肉は湿気を嫌う
雨の日に肉を外干しするのはNG。雨の湿度によりカビが発生しやすくなるためです。とはいえ晴れている日も要注意。干し肉は「風通しのいい場所での陰干し」が条件です。空気が滞留しているような場所では湿度が高くなりやすく、晴れている日でもカビのリスクがあります。
言うまでもなく日本は湿度が高い上に、星の数ほど多様なカビが存在しています。干し肉作りは少し油断すると、すぐにカビが繁殖してしまうのです。もちろん小さな島国とはいえ、地域や環境などにより成果は左右されます。いずれにせよベーコン作りにおいてカビはとても深刻であり、最大の敵であることをお留め置きください。
結論
細菌やカビなどについて造詣を深めるには時間がかかりますので、ここでは要点だけしっかり押さえておいてください。
まず細菌は「温度」と「肉の水分」で繁殖しやすくなるということ。これを防ぐため(塩漬けなどで)効率的に肉の水分を抜き、細菌が繁殖しにくい環境を作ります。効率が悪いと細菌が先に繁殖してしまう可能性があります。干物は「手際が勝つか細菌が勝つか」の細菌との競争だと言っても過言ではありません。
次にカビは「湿度」と「環境」で繁殖しやすくなります。温度にはさほど影響されません。またカビの種類によって高温環境、低温環境、多湿、乾燥など好みが違うため、これらすべてを対策するには「物理的にカビが繁殖しにくい環境を作る」しかありません。それは「カビが物理的に付着し留まりにくい環境」を指します。つまり「肉の表面が乾燥していて、常に風にさらされているような環境」。
要するに「風通しのいい場所」です。
特に肉の切れ端に散見される、ヒダ状の水分が溜まりやすく風が届きにくい箇所は要注意。
その他諸々本格ベーコンを作る手順や、各種リスクへの対処方法については本編にて詳しくご紹介します。
次回は本項の続編として、自家製ベーコン作りでもっとも避けなければならない「ボツリヌス菌」のリスクと対策についてお話しします。
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