今日の食費は0円⁉身近にある食べられる野草5選③

今日の食費は0円⁉身近にある食べられる野草5選③

手軽に楽しめる身近な野草を紹介する当シリーズも、いよいよ最終回です。

前回、前々回ではたんぽぽによもぎ、フキ、カタバミを紹介しました。たんぽぽが食べられる野草だと初めて知った方も多いのではないでしょうか。

おいしく食べられて、しかも体にいい野草は身近なところにたくさんあります。春は山菜がおいしい季節ですが、山菜も野草の一種。もともと植物はすべて自然界にルーツがありますから、身近なところに食べられる野草がたくさん自生しているのは何も不思議ではありません。

しかし、我々に健康や喜びの恵みを与えてくれる野草がある一方で、ときには人を死に至らしめるほどの毒性を持つ植物もあります。トリカブトなどが有名でしょうか。

野草シリーズ最終回である今回は、野草採取の基本的な心得である「安全」への注意喚起として、おいしい野草の代表格である「うるい」をご紹介します。

うるいとは

うるいは山菜の一種で、正式にはオオバギボウシといいます。ギンボやギボウシと呼ばれることもありますが、一般的には「うるい」の名称で親しまれています。

シャキッとした歯ごたと独特のぬめりがあり、野草の中ではかなりアクが少ないため食べやすいのが特徴です。うるいを食べると「春だなぁ」と、ふと田舎への郷愁が蘇ります。故郷の懐かしさを思わせる魅惑的な野草ですね。

チコリーにも似た見た目で洋野菜のような雰囲気がありますが、うるいは実は日本で古くから食べられています。今でこそ農家で安定的に生産されて全国に流通していますが、もともとは東北を中心に食べられており、山形では伝統野菜として明治20年代後半頃から栽培が始まったといわれています。

やがてうるいの栽培が北海道から本州まで広がり、今では全国的に栽培と流通が行われています。それに伴い野生化したものも多く、全国的に広く自生しているものが見られます。わざわざ山へ足を運ばなくても、住宅街の空き地や小さな森林などでも普通に見られるとても身近な野草なのです。

地域によって多少の誤差がありますが、大体毎年4~6月まで野生のうるいを収穫できます。

うるいの栄養価

うるいの一番の特徴は、やはりその独特のぬめり(粘り)です。この独特の食感に魅了された人も多いでしょう。ネギにも似たその粘りの正体は、水溶性食物繊維です。つまりは水に溶ける食物繊維で、これには便秘の解消や胃の粘膜の保護、消化の促進といった効果があるといわれています。

そのほかにもうるいにはアンチエイジングを助けるポリフェノール類やカロテンが豊富に含まれており、ビタミンCについては山菜の中でもトップクラスの含有量といわれています。つまりうるいは、美容や健康に寄与する成分をたっぷりと含んでいるということ。ワンシーズンしか楽しめない春の味覚を、ぜひ自分の手で収穫するところから楽しみたいですね。

うるいの食べ方

若い新芽のうるいにはほとんどアクがなく、生でそのまま食べることができます。収穫したうるいをきれいに洗って水気を拭いたら、そのまま切って酢味噌でいただいたり、サラダにしたりするのもいいですね。多くの野草のようにあく抜きのための下処理を必要としないため、料理初心者でも手軽に楽しめます。

さっと湯通ししたらすぐ冷水にとり、和え物にするのも王道ですね。もちろん天ぷらやお浸し、炒め物とも相性が抜群。クセがなく食べやすいため、どんな料理にも合わせやすいのです。

うるいの香りや食感、みずみずしさを存分に楽しむなら、やはり洗って酢味噌がオススメでしょうか。いずれにしても基本的に下処理は不要と考えて構いません。

うるいの酢味噌の作り方

うるいの酢味噌の作り方はとても簡単。うるいをよく洗ったらキッチンペーパーなどで水気を拭き取り、一口サイズにカットするだけ。これだけでうるいの処理は完了です。

おいしく作るポイント

酢味噌は「味噌:砂糖:酢=2:1:1」の割合で混ぜるだけ。お好みで砂糖を増やしたり味噌や酢の種類を選んだりしてください。地域によって好まれる味噌や酢の種類が異なりますが、香りの強い味噌よりも白味噌の方がうるいのさっぱりとした風味とバランスよく合います。

ここで大切なのが「酢味噌は添える」ということ。

カットしたうるいと和えてしまうと、意外と早く味噌の塩分によって浸透圧がはたらき、料理が水っぽくなってしまいます。これはうるいに限らずすべての和えものにいえることですが、和えてすぐに食べないのなら酢味噌は添えるのがベターでしょう。

恐ろしい毒草!バイケイソウに要注意!

さて、今回野草シリーズの最後になぜうるいを紹介したか。冒頭でお話しした通り、自然界には脅威ともいうべきおそろしい毒草もある──という注意喚起をしたいからです。

うるいはとても香りがよく魅力的な野草ですが、実はこれに似た毒草の誤食による食中毒事故が跡を絶ちません。

「バイケイソウ」と呼ばれる毒草です。

実は今回、当記事を執筆するにあたり私自身で野生のうるいを探しに出かけ、無事に発見・収穫できたのですが、その場所ではうるいとバイケイソウが混生していました。住宅街の片隅にある小さな林、そんな生活にとても身近な場所に、うるいと毒草であるバイケイソウが混生しているのです。食中毒事故がいかに身近であるかを物語っています。

バイケイソウの恐ろしさ

バイケイソウは根から葉の先まで全草すべてに毒性の強いアルカノイドを含有しています。加熱しても毒性物質は分解されないため、たとえ天ぷらにしても煮込みにしても食中毒を引き起こします。

食中毒の症状としては、食後30分から1時間ほどで吐き気や下痢などが表れ、めまい、手足のしびれ、血圧降下、心拍数の減少、けいれんなどの症状が表れます。重症になると意識不明となり死亡するほどの毒性といわれていますが、厚生労働省のデータによると令和元年から過去10年、バイケイソウによる死亡事故は発生していません。

しかし有毒植物による食中毒事故の発生率はトップ5にランクインしています。要するにそれだけ発生件数が多いということです。事故を起こさないよう、うるいとバイケイソウをしっかりと見極める知恵を身につけておきましょう。

うるいとバイケイソウの見分け方

写真はうるいです。うるいとバイケイソウは、特に新芽のうちは外見がよく似ています。また先述したように、同じ場所に混生することもあるため、株を一つひとつ確認しながら収穫する必要があります。

うるいとバイケイソウを見分けるポイントは大きく三つあります。

①葉脈が違う

こちらがバイケイソウです。当ページで初の写真登場です。先のうるいの写真と比較してもらえばわかりますが、葉脈(ようみゃく)の形が違います。葉脈とは、葉に模様のように走っている線のことです。

うるいは葉の中心に太い葉脈が一本あり、そこから枝分かれするように細い葉脈が全体に走っています。一方バイケイソウは、葉の根から先端までそれぞれの葉脈が平行に走っています。これはうるいとバイケイソウを正しく見分ける一番のポイントです。

②柄の有無

こちらはバイケイソウを横から撮影したものです。中心に太い枝があり、そこから葉が分岐しているのがよくわかります。うるいにはこのような柄がありません。

しかし新芽のうちはバイケイソウにもこのようにわかりやすい柄がないので要注意。

写真の奥を見てもらえば、バイケイソウが群生しているのがわかるかと思います。この中に少しのうるいがぽつんと混生しています。新芽のうちでしたら、遠目にはあるいは知識のない人からすれば「うるいがたくさんある」と勘違いしてもおかしくありません。

③ぬめりの有無

バイケイソウには、うるいのようなぬめり(の食感)がありません。間違ってバイケイソウを口にしてしまった場合も、「うるいのようなぬめりがない」という異変に気付けばすぐに吐き出すことができます。

うるいは天ぷらにしてもおひたしにしても、もちろんそのままサラダで食べても明らかなぬめりがあります。この異変に気付けるかどうかが食中毒事故を防止する最後の砦なので、ぜひ念頭に置いておいてください。

その他の注意点

うるいに限らず野草や山菜全般にいえますが、有毒植物による山菜事故は、悲しいことに「おすそ分け」で発生しやすいのが現実です。つまり山菜狩りなどに行った親戚や友人、ご近所さんからのおすそ分けです。いただいた方に植物を見極められる知識や経験があればいいですが、そういうケースはあまり多くないでしょう。

ですから基本的に、おすそ分けは「しない、いただかない」を意識してください。人の善意を拒絶するのは心苦しいですし難しいかもしれませんが、少なくともここまで読んでくださっている聡明な読者様は、相手を思うなればこそおすそ分けをしない──という選択もできるはずです。

また野草は農家などで栽培されたものと違い、衛生管理されているわけではありません。バクテリアなどにさらされている可能性がありますし、特に住宅地など人の往来がある場所では、飼い犬や猫などの遊び場になっている可能性も決してゼロではないのです。

ですから、人の往来が多い場所での収穫はできるだけ避け、収穫したものはとにかくよく洗ってください。

さいごに

毒草の誤食や衛生的なリスクがあるのなら、おとなしくスーパーで買えばいいじゃない──そう思う人もいるかもしれません。それは確かにそうで、私も普段はスーパーや市場で野菜やフルーツなど食品の多くを購入しています。

しかしそうしたリスクを踏まえて、あるいはそのリスクを軽減するための知恵を身につけ最大限の努力をし、回り道をしてまでいただく食事は、やはり特別なのです。そしてこれこそ、アウトドアの醍醐味ではないでしょうか。

自然の浪漫は、私たちに不条理な要求も陰湿な嫌がらせもしなければ、皮肉さえ言ってきません。それは常に公正で、だからこそ時には無情にも人を苦しめ命すら奪います。しかしその自然という残酷なほど公正な世界で得られる「生きる喜び」や「生きる実感」は、ストレス社会に生きる現代人にもっとも必要なものなのではないかと思うのです。

上司や部下の愚痴や陰口、いびつな人間関係や過酷な労働から一度自分を解放し、雄大な自然の中、自分の知恵と努力で獲ってきた野草をおいしくいただいてみてください。

心に生命力が戻るのを感じるはずです。

あなたはあなたの力で生きられる、それを自分自身に証明したのですから。